仐日和 代表 / 和傘職人 河合 幹子さん
〈PROFILE〉
昭和62年生まれ。東京の折込広告会社に勤務後、岐阜に戻り、簿記の資格を活かして税理士事務所へ転職。在職中に老舗和傘問屋「坂井田永吉店」3代目の叔父から声がかかり、和傘職人へと転身。その後、平成28年に『仐日和』を立ち上げる。蛇の目傘、番傘、日傘、小蛇の目など、毎月15~20本の和傘を生み出す。若き女性和傘職人としても注目を集め、多数のメディアに出演。東京での展示会や県内での糸かがり体験などのワークショップも定期的に開催。
私の夢は岐阜和傘を産業として成立させること。
“開けば花、閉じれば竹”と謳われる和傘の美しさ。「和傘と言えば京都や金沢などを生産地として思い浮かべる人が多いのですが、岐阜市周辺は国内生産量の3分の2を担う一大産地なんです」。制作途中の傘が掛けられた自宅の一室で、今日も黙々と傘作りに励む河合幹子さんは、新進気鋭の和傘職人だ。
河合さんが和傘職人という職業を知ったのは子どもの頃。老舗の和傘問屋「坂井田永吉店」の家系に生まれ、和傘職人だった祖母を持つ彼女にとって、和傘はとても身近な存在だった。「ゆくゆくは和傘制作に携わりたいと思っていましたが、漠然としか思っていなくて」。
岐阜市内の税理士事務所に勤めていた時、転機は突然訪れた。人手不足などもあり、「坂井田永吉店」3代目の叔父から「和傘をやってみないか」と声が掛かり、27歳でこの世界に飛び込む。
岐阜市内の税理士事務所に勤めていた時、転機は突然訪れた。人手不足などもあり、「坂井田永吉店」3代目の叔父から「和傘をやってみないか」と声が掛かり、27歳でこの世界に飛び込む。
長良川流域では、和傘の原料となる良質な竹や美濃和紙、荏油、わらび糊などに恵まれたことから、江戸時代に和傘製造が地場産業として発展。昭和初期のピーク時には、年間一千万本を超える和傘が生産されたほどだ。しかし、かつては何百軒もの傘問屋が軒を連ねた岐阜市に残った傘問屋は、現在3軒に。最も深刻な原因は高齢化による和傘職人の不足だ。
和傘作りは、数十以上の工程があり、傘の骨を作る「骨師」、紙を張る「張り師」、油と漆を塗る「仕上げ師」などそれぞれの職人が分業して、数週間から数カ月をかけて一本の傘を仕上げる。
しかし今後は和傘の分業制が難しくなるかもしれないと、河合さんは一人で和傘を完成させる技術を身に付けるべく、修業。平成28年に独り立ちし、『仐日和』を立ち上げた。
骨組みを整え、和紙を張り、補強と装飾を兼ねる糸かがりをし、漆を塗ったら、頭部分に仕上げの頭紙を付けるという工程を繰り返し、毎月15~20本の和傘を完成させる。「一番のこだわりは閉じた時の傘の姿勢です。岐阜和傘として販売する以上、すっとしたシルエットを大切にしています」。最盛期に他産地と職人技を競った岐阜和傘は、畳むと美しく、細く収まるシルエットが特長。河合さんは、竹の癖を読み、温度や湿度の徹底した管理、紙の張り方や漆がけまで、すべての工程を緻密に計算し、閉じた佇まいの美しさまでを表現する。
また、彼女が生み出す和傘は洋服にもよく合うように細部にまで手の込んだデザイン性を備えていることで評判高い。和紙の色や柄に合わせて外周に張る軒紙や、内側に紐を通す糸かがりの色にまで気を配る。
代表的な「月奴」は、祖母の勝代さんがよく張っていた、月夜を思わせる模様。その伝統的な模様を明るい色合いやポップな柄合わせにすることで、あくまで“作品”ではなく、“使ってもらう商品”として現代の生活にも溶け込むようにデザインする。
岐阜が和傘の産地であることを知ってもらいたい。そんな想いからSNSでの発信も始めた。「私の夢は私の傘が売れることや技術を残すことだけじゃなくて、産業として和傘文化を成り立たせること。和傘作りに従事する人たちが生活していけるようにしたいんです。そのためには、和傘と言えば岐阜と言われるように認知を上げること。そして生産量を増やすために、部品の供給が途絶えない体制を整えないと」。その想いは実り、問屋や職人、関係者が共同し“主要部品製造の後継者を育成する”というプロジェクトが発足。岐阜市和傘振興会は「岐阜和傘協会」に改名し、令和2年の1月から正式に活動が始動する。現在は、クラウドファンディングで職人育成資金を募っている最中だ。
「夢は大きいけど、目指さないと実現しない。自分一人じゃないから、一層身が引き締まりますね」。その小さな体に、大きな使命を背負う河合さん。前をしっかりと見つめる彼女の姿は、和傘のように凛として美しい。
基本情報
URL | http://kasabiyori.com/ |
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SNS | |
その他備考 | [仐日和 の和傘が買える場所] 岐阜和傘専門店『和傘CASA』 岐阜市湊町29 長良川てしごと町家CASA 1F TEL.090-8335-9759 火・水曜定休 駐車場2台 https://www.teshigoto.casa/ |
掲載した情報は2019年12月11日時点のものです。