koti

西村さんが店を始めたのは平成24年。この時もリノベーションした古民家を店舗にしていたが、オープンから10年が経った頃、建物の解体が決まり、一時閉店を余儀なくされた。そこから街中を歩き回り、物件を探す日々が始まった。「良さそうな空き家があれば近所の人に持ち主を教えてもらい、直接交渉しました。全然見つからなくて大変でしたね」。そして半年が過ぎた頃、ようやく辿り着いたのは築60年の古民家だった。

雨漏りしていた天井を取り外し、板間は張り替えた。壁と床板の塗装などは自ら施した。引き戸のレール、木でできた窓枠、クラシックな柄の窓ガラス、柱に残る鴨居の跡。古いものを生かしつつ手を加えた。「大切に使い込まれてきたものの温かさや経年による風合いの一つ一つがとても愛おしいんです。ここにいると不思議と気持ちが落ち着きます」と西村さん。

『koti』はフィンランド語で「家」を意味する。家で過ごすのが大好きだという西村さんが理想とするのは「家時間を大切にする女性のための雑貨屋」。扱うのは心地よい手触りの木皿や手仕事のぬくもりが感じられるブローチ、パリの蚤の市にありそうな文房具など。それらが空間に溶け込むように、使い古したミシンや洋書、古だんすを使った棚にそっと置かれている。「自宅で気軽に楽しんでもらえるように、値頃なものをそろえています。家に持ち帰って幸せな気持ちになってもらえたらうれしいですね」。

この食器をあの棚に置こう、この一輪挿しに庭のあの花を生けよう、と思い浮かべながら店のあちこちで立ち止まる。そして心に留まったお気に入りを手に、軽やかな足取りで家路に向かう。そんな小さな幸せをそっとおすそ分けしてくれる、大切にしたい場所がまた一つ増えた。