恵那醸造

恵那醸造

山里の小さな蔵で生まれる、味わい深い〝地酒〟
中津川市の中心市街地から車を走らせること約30分。細い山道を抜けた先の山里に『恵那醸造』はある。江戸時代末期の文政元年に創業し、5代目の長瀬幸右衛門から酒造りを続ける、小さな酒蔵だ。
「蔵見学に来てくださるお客様はみんな、こんな山の中にほんとに酒蔵があるのか、って不安になるみたいですね」。愉快そうに笑うのは11代目の長瀬裕彦さん。小学生の頃から冬になると蔵に入り浸り、杜氏や蔵人と将棋を指して遊んだ。やがて、大学進学を機に東京に出て就職もしたが、家業を継ぐために32歳で帰郷する。杜氏はすでに高齢になっていた。「うちは仕込みも小さいし、この先ずっと、杜氏を呼べるかも難しい」。そこで、長瀬さんは自らが杜氏となることを決意する。冬は蔵に来る杜氏に一から酒造りを学び、夏は泊まりがけの勉強会に参加して、7年ほどが過ぎた平成17年、蔵元兼杜氏として酒造りを始めた。
恵那醸造
午前9時50分。蔵に続く建物の中央に置かれた甑の中で300キロの酒米が蒸し上がった。それをひたすらショベルで掬い出すのは、長瀬さんの甥の川出和希さんだ。その作業は厳かに、黙々と1時間以上続く。コンベアーに乗せて自然に冷却させた米は、強力な送風機により、管を通って蔵の中にあるタンクへ送られる。この米と水、麹や酵母の力などが作用し、タンク内でゆっくり酒が醸される。
「酒造りは難しいです」。気候や温度の見極めはもちろん、麹の使い方や酵母の生かし方といった、さまざまな要素の一つひとつが酒の味を左右する。「失敗もありますよ。もろみの中で米が溶けすぎてしまうと、この味にしたいと思う前に発酵が止まって、甘くなったり」。経験を積み重ねながら、尖りのない、優しくて飲み飽きしない酒を目指す。
恵那醸造_ひだほまれ
恵那醸造では、明治時代には高級な一級酒として「殿待」も造っていたが、「普段に飲む普通酒の『鯨波』の方がよく売れて。だから、ここら辺でうちは“鯨波さん”って呼ばれていたんです。親父の時代にも、普通酒を安く、たくさん売っていて」。この蔵の酒は、まさに地元でこそ飲まれ、愛される“地酒”だった。時代が変わり、日本酒離れが進んで、業界は厳しい現実に直面。そんな時に家業を継いだ長瀬さんもまた、蔵の行く末を楽観はできなかった。杜氏となり、辛口の純米酒だけだった「鯨波」に、香りや旨みが感じられる吟醸酒も加えるなど、奮闘。おかげで飲食店からの引き合いも増え、東京の地酒専門店でも取り扱いが始まった。「ただ、大きくしていくつもりはなく、自分たちの規模に合った酒蔵であればいいと思ってます。納得のいく旨い酒、そしてやっぱり地元で飲まれる酒を造りたい」。
恵那醸造
子どもの頃から酒粕がおやつがわりだったという長瀬さんは、かなりの上戸。県内外から酒を取り寄せ、晩酌するのが愉しみだ。旨い酒には素直に顔がほころぶ。昨年から酒造りを手伝い始めた和希さんもまた、負けず劣らずの酒好き。「あいつはえらい飲みますよ。一緒にいろんなお酒を飲んで、ああだこうだ言うのが楽しいんです」。酒は人を和ませ、互いの心を通わせる。
恵那醸造スタッフ
蔵の前に立つと、目の前に遠く連なる中央アルプスが見える。その山並みの上に浮かぶ雲が、まるで鯨のように見えたことから、「鯨波」は誕生した。「標高600mのこんな自然の中で、この辺りで作られた米や裏山の湧水を使って造られる酒が『鯨波』なんです」。長瀬さんは生まれ育った故郷を愛しみ、この場所で、故郷の酒を造り続けている。
酒にはきっと、造り手の性格や生き様が表れるのだろう。この蔵の酒は、長瀬さんの人柄のように朴訥で、穏やかな味がする。

基本情報

住所 中津川市福岡2992-1
TEL 0573-72-2055
営業時間 9:00~16:00
定休日 日曜日
駐車場 3台
URL http://www.kujiranami.jp/
その他備考 ※酒蔵見学は要事前予約

【取扱店】
中津川市内の酒販店、酒の中島屋(岐阜市)、酒のひろせ(岐阜市)など

掲載した情報は2016年12月11日時点のものです。

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