aun特別対談 継ぐということ

aun特別対談 継ぐということ
(右)十八楼 女将 伊藤 知子 さん
8代目・伊藤善男さんの長女として生まれ、平成15年に女将に就任。
約300人の従業員をまとめ、時代に合ったおもてなしを届ける。
[十八楼 紹介ページ]

(左)山本佐太郎商店 4代目 山本 慎一郎 さん
140年以上続く油卸問屋の店主。柔軟な発想で新たに菓子事業部を立ち上げるなど、未来を見据えた経営に力を入れる。
[山本佐太郎商店 紹介ページ]

―先代からのバトンを受けて

山本 お久しぶりです。何度もお会いしたことがあるのに、ゆっくりお話しするのは初めてですね。
伊藤 本当ですね。本日はよろしくお願いいたします。
山本 早速ですが、宿を継ぐことを決意されたのはいつですか。
伊藤 私は大学卒業後、スタッフとして十八楼で働いていたんですが、当時付き合っていた主人が急に「会社を辞めてここで一緒に働く」と言い出しまして。そのときに初めて決意をしたといいますか、腹をくくったといいますか。
山本 ご主人はなぜ、そう決断されたんですか?
伊藤 私と結婚するなら自分がここに入らなければいけないと思ったんでしょうか。誰かにそう言われたわけじゃないのですけれど(笑)。でも、主人が決断してくれたおかげで私も頑張っていこうと、この人と一緒にやっていこうと思いました。
山本 それまで継げと言われたことはなかった?
伊藤 ないですね。いつかお嫁に行ってここを離れるのかな、なんて思っておりました。

山本 実は僕も、継げと言われたことは一度もないんです。ただ、親父から商売の面白さとか、こうやったら儲かるんだよとか、そんな話を聞いてて、なんとなく継ぐんだろうなとは感じてたかな。
伊藤 実際に継ぐことになられたのはまだお若い時でしたよね。
山本 はい。僕が22歳の時に親父が亡くなって。食ってくためには目の前のことをやるしかない。その時ですね、覚悟したのは。
伊藤 直接、お父様から何か教わったことはありましたか。
山本 親父とは喧嘩ばっかりだったんですよ(笑)。当時は若かったから、教えてもらうことを素直に聞けなかった。ただ一番覚えてるのは、「いろんな人と出会える仕事だから、尊敬できる人を見つけてその人を目指して頑張りなさい」という言葉です。
伊藤 今、尊敬できる方はいらっしゃいますか?
山本 もう、いっぱいいますよ。まちの人も、取引先の人も、知子さんも。僕にないものをたくさん持ってるじゃないですか。仕事を通じてそういう人たちに出会えるっていうのは喜びです。
伊藤 私も父から特別に教えられたことはなくて。でも父を見ていると、やっぱり地域を大切にしていますね。「旅館は、地域の旗振り役でなければいけない」ということを、父の姿から感じています。
山本 僕は学生の頃、親父は何を作っているんだろうって考えていました。初代は油を作っていたけど、今は問屋業になった。でも、何かを作ってくことが大事だと思ってて。ある日ふと、「あ、親父が作ってたのは、人と人との信頼関係か」と分かりました。“店を継ぐっていうのは、お客様を継ぐってこと”なんだなと。10年くらい経ってやっと気付けました。

―岐阜のまちと老舗のこれから

伊藤 老舗として続けていくためには何が大切でしょうか?
山本 まちは常に動いてて、それに合わせて商売の仕方も少しずつ変えていくことですかね。
伊藤 老舗だからずっとこのまま、というわけにはいかないですよね。
山本 ええ。問屋業もただ仕入れて売るだけじゃだめで、何か新しい価値を発信してかなきゃいけない。そこで生まれたのが「大地のおやつ」シリーズです。和菓子職人の“まっちん”がくれたアイデアなんですけど、それで新たに菓子事業部を立ち上げました。
伊藤 今では全国的に知られる商品になりましたよね。私は、“変わってなさそうで変わっている”が一番大事だと思うんです。大地のおやつ
山本 どういうことですか?
伊藤 実は、うちのお料理のだしは昔から同じなのかというとそうでもないんです。濃いめが良い時代があれば、優しい味が良い時代もある。時代や流行に合わせて変えていることもありますが、変わったねと気付かれない、そんな塩梅を大切にしております。
山本 なるほど。老舗の風情というか、旅館ならではのほっとする感じはそういったところからきてるんでしょうね。
伊藤 ありがとうございます。今後は、何か目標はありますか?
山本 油問屋として、岐阜の食文化をしっかりと支えていきたいです。そのために、この土地らしさっていうのをもっと発信できれば。
伊藤 よくお客様が「岐阜にはこんなに良いものがあるのに、どうしてもっとアピールしないの」っておっしゃられるんです。食に限らず、まちも、地場産業も。
山本 ちゃんと良さを伝えられれば、岐阜はもっと盛り上がる。僕たちもお互いにできることがあるんじゃないでしょうか。
伊藤 ええ。山本さんみたいに新しいことに挑戦している方をどんどん巻き込んでいきたいです。そのためにまず、旅館が旗振り役として声をかけていこうと思います。
山本 僕には6歳と3歳の子どもがいて、次の世代のことも考え始めています。親父に継げと言われなかったように、僕も継げとは言わないかもしれないですけど。でも、やるべきことに注力して、次へ渡すための土台はしっかりと整えておきたいですね。
伊藤 私も、この暖簾のバトンを渡すのは自分の子どもじゃないかもしれません。でも確実に、誰かに渡したい。その渡し方や渡す先は、間違えてはいけないなと思っています。

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2018年12月25日発行(年4回発行)
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