長良天然ワイン醸造

ナガラテンネンワインジョウゾウ

代々の製法を信じて造る、まっすぐなワイン。
岐阜市に、3代続く家族経営のワイン醸造所がある。天保年間から建つ蔵とその横の倉庫で、毎年新しいワインが生まれる。『長良天然ワイン醸造』。昭和初期、砂地で水はけの良い長良川沿いで葡萄栽培が広まったのと同時期に開業した。葡萄畑近くの集落にあるそれは、一見普通の民家のよう。「夏の葡萄搾りはここに機械を置いて行うんだよ」。3代目の林真澄さんが指差す先は自宅の駐車場。「1カ月間、甘い香りが広がるね」。
ささやかなこの場所で造られるワインは、自園や山梨産などの有機栽培葡萄を使い、蔵に住み着く天然酵母でゆっくり発酵。酸化防止剤も加えない、自然に即したワイン。酒屋を営んでいた祖父の与吉さんは、国産ワインの研究所や大学、身内の杜氏から知識を得て自力で醸造を開始。父の昭さん、真澄さんと代替わりしても、その製法はただ静かに守られてきた。孤高でマイペースな醸造所。その唯一無二のワインを、全国の客は毎年のように心待ちにする。
「父は頑固者で職人気質。え、私? 普通。根気もない」と即答する真澄さん。だがそのワインは、タンニン、酸味、ミネラルがバランスよく馴染み、最も難しい“万人受けする普通”でありながら、品が漂う。約25年前、服飾の仕事に没頭していた頃、昭さんが急逝。残されたのは蔵出し前のワインとそれを求める大勢の客だった。「もう使命感だけで継いだね。元々継ぐ気なんてなかったし、教わったこともなかった。でも子どもの頃に見てたのが大きかったな」。そして、葡萄のことを近所の農家に尋ね、醸造技術は約3年、幾多の試行と失敗を経て体で覚えた。最も神経を使うのが発酵の温度管理。天然酵母と反応し、ぽこぽこと沸いてくる果汁の温度を保つため、タンクに水入りの瓶を投げ入れたり、かき混ぜたり。「夜中4時になると落ち着くんだけど」。蔵でうとうとしながら酵母に付き合う。
「今も楽しくはないな」。取り繕うことのない、正直な言葉。だが、楽ではない従来の製法を変えることは考えもしなかった。「祖父や親父のやり方しか分からないし、これがいいと思ってる」。目指すのは、開栓と同時に葡萄本来の香りが立ち、果実をそのまま感じるまっすぐなワイン。それはまるで、何事にも素直に向き合う真澄さんのよう。「自分好みのワインを目指してきたけど、最近は親父の感覚と味に近づいてきたかもね。出来たワインを飲んでもらう時は、そりゃうれしいよ」。冬になり、葡萄栽培の土づくりが始まる。さて、今年の葡萄から、いったいどんなワインが出来るだろう。

基本情報

住所 岐阜市長良志段見106
TEL 058-232-4750
営業時間 9:00~18:00
定休日 不定休(1/1~4は休み)
駐車場 2台
掲載した情報は2014年12月25日時点のものです。
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