ひょうたん

親子3人でつくり上げる、ここにしかない味
岐阜市南部の郊外。少し薄暗くなり始めた黄昏時、大通りに面したテナントの一角に温かな明かりが灯ると、ぽつりぽつりと人が集まってくる。餃子専門店『ひょうたん』だ。野々村昭二さんが還暦を迎えた20年ほど前に始め、親子3人で切り盛りしている。
店主のルーツは、母が旧満州から引き揚げ、市内で始めた餃子の店「八起」。10代後半から兄とともに店を手伝い、現地仕込みの技を体に覚え込ませた。歳月を経て、兄は母の店を継ぎ、昭二さんは独立。店は繁盛したが、毎日夜明けまで仕事に追われ体調を崩してしまい、やむなく別の仕事に就いた。しかし、いつかこの世界に戻るという心の火は絶やさなかった昭二さん。12年が過ぎた頃、ようやく体力勝負の餃子作りと向き合う力を蓄え、悲願の再出発を果たす。ひたむきな想いを込めた餃子のおいしさがじわじわと広がり、地元客のみならず全国からも食い道楽が訪れる店となった。
餃子一筋60余年。メニューは焼き餃子と水餃子のみ。「八起」のレシピをベースにスパイシーな味付けにアレンジした。「作り方は秘密(笑)。とにかく、心を込めて手間暇をかけるだけやね」。自然由来の素材を徹底的に吟味し、余計なものは一切入れない。皮は無論、タレやラー油も全て手作りだ。それ故、営業前の仕事も多いが、妻の吉子さんも「今ではヒロ君が一番速い」と話す息子と3人で厨房に並び、手際よく毎日数百個を仕込む。
餃子を焼く際に欠かせないのが、40年来の相棒である大きな鉄フライパンだ。もっちり肉厚な皮にじっくり火を通し、頃合いを見極め、ふたを開ける。「愛着のある道具じゃないと出せん味があるでね」。熱々の餃子を口に運ぶと、香ばしい焼き目が付いた面とぎっしり詰まった餡の食感のコントラストが心地よく、ピリッと利いたこしょうの風味が全体を引き締める。見た目以上の食べ応えと、噛むほどに複雑で奥行きのある味わいに、食通たちも思わず膝を打つほどだ。
「店を始めるまで時間がかかったけど、人生は七転八起。諦めんのが大事。あとは、うまくいかんことや失敗も笑い話に変えて、お客さんが楽しんでくれたらそれでええのよ」と昭二さんが話せば、吉子さんは微笑み、息子はやさしい眼差しを向ける。多くの人が何度もこの店に足を運ぶのは、3人にしか生み出せない味と、家族の原風景がなんだか愛おしくなるからなのだろう。

基本情報

住所 岐阜市中鶉6-180-1
TEL 058-276-4633
営業時間 17:30~21:30(LO21:00)
定休日 日曜
駐車場 共同駐車場あり
掲載した情報は2023年7月24日時点のものです。
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