長良川鉄道

ナガラガワテツドウ

美濃加茂市から富加町、関市、美濃市、郡上市へと 10の橋梁を渡り、12のトンネルを抜けて38駅を結ぶ。 そのローカル線は、列車旅の魅力に満ちていた。
ガタンゴトンと小気味良い走行音が響く。車両先頭の貫通扉から、流れ行く景色と、ひたすら眼前に伸びる線路を飽きることなく眺める。毎日上下線各1本ずつ運行される「ゆら~り眺めて清流列車」。景観の良いポイントで徐行運転を行う観光客に好評の列車だ。
大正12年に「美濃太田」-「美濃町」間が開業、昭和9年に「北濃」までの全線が開通した国鉄越美南線。しかし、国鉄再建法により廃線を受け、昭和61年に第三セクターとして誕生したのが「長良川鉄道」である。地域の足という役割はもちろん、沿線5市町を訪れる観光客からの需要も高く、イベント列車や独自のツアーを企画して利用者の増加を図りながら、路線存続への奮闘を続けている。
美濃市の「湯の洞温泉口」から終点「北濃」まで、車窓の景色は実に変化に富む。滔々と流れる長良川を右に左に望みながら、9つの橋梁を渡り、大小11のトンネルをくぐり、集落や畑や樹林、渓谷の中を抜ける。「左手に富士山が…見えたら良いのですが、残念ながら見えません。しかし、今日は白山連峰がきれいに見えます」。ユーモアたっぷりのアナウンスが聞こえ、座席から和やかな笑い声が起こる。声の主は運転士歴20年の大野敏明さん。安全で快適な運転が第一と心得ながらも、乗客に喜んでもらえたらと始めた愉快なアナウンス。台詞はすべて自前、車内の顔ぶれを見ながらマイクを握る。「地域の方にとって列車は家と同じ。学生や会社員の方には、朝は“行ってらっしゃい”、夜は“お帰りなさい”と必ず声を掛けます」。地域を繋ぐローカル線。一両編成のワンマン列車は、運転士と乗客、お互いの顔が見える人情列車でもあった。
昭和4年に建てられた木造駅舎や渡り廊下が残る「郡上八幡」で下車。年間10万人以上の観光客が訪れる城下町を散策する。慈恩禅寺の荎草園はぜひ訪れたい名勝。深紅の毛氈に座して眺める庭園。岩肌を流れる滝の音、風の気配。穏やかな自然に抱かれ、時が過ぎるのを忘れる。11月初旬の紅葉の美しさは、いかばかりであろうか。
再び長良川鉄道に揺られて終着駅「北濃」へ。越美南線は福井県の越美北線とを繋ぐ越美線として着工されたが、この駅から先に線路が延びることはなかった。草叢で途切れたレールが旅の終わりを告げる。きっといつかまた、ここを訪れるであろう朗らかな予感を胸に、夕暮れの赤い列車に乗り込んだ。

基本情報

TEL 0575-23-3921
URL http://www.nagatetsu.co.jp/
その他備考 路線:美濃太田(美濃加茂市)ー北濃(郡上市)
全長:72.1キロメートル
運賃:美濃太田ー北濃 大人1,720円(税込)
掲載した情報は2014年09月25日時点のものです。
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