下呂温泉

川原

深い緑の山々に囲まれた飛騨川沿いに、宿や飲食店、土産物屋が賑やかに軒を連ねる。日本三名泉として知られ、毎年約100万人もの観光客が訪れる下呂温泉。この温泉が多くの人々に愛される理由は、なんといってもその泉質の良さにある。無色透明のアルカリ性単純温泉で、最高82℃という高い泉温とほのかな硫黄臭、高いpH値が特徴。なめらかな湯ざわりで、肌をつるつるにしてくれることから”美人の湯“として評判が高い。
湯之島館の露天風呂
開湯から1000年以上続く歴史の中で、この地が全国有数の温泉街へと発展を遂げたきっかけは、昭和5年のJR高山線下呂駅の開業だ。それを機に、「水明館」や「湯之島館」をはじめとする多くの旅館が飛騨川の両岸に次々と建設された。
下呂温泉発掘の写真
しかし同時に、至る所で温泉掘削が行われるようになると、湯口ごとに泉質や湯量、泉温が異なることや、乱掘による泉脈の水位低下といった問題が現れた。そこで導入されたのが、12カ所の源泉を一旦タンクに集積し、そこから各施設へと温泉を供給する「温泉集中管理システム」である。下呂温泉旅館協同組合事務局長の奥村公平さんは、「このシステムのおかげで、組合に加盟するすべての宿や公共浴場で上質な湯が平等に楽しめるようになり、貴重な温泉資源も守られたんです」と話す。
湯之島館の大浴場
当時、このシステムの実現に向けて奔走したのは、水明館の2代目・瀧行雄さんと3代目・恒雄さんだ。下呂温泉の将来を見据えて「個々がばらばらに動いていてはいけない」と声を上げ、周囲を説得。そして昭和49年、ついに運用までこぎつけた。
右)橋 左)下呂温泉の旗
そうした温泉街の発展に尽力する精神は、現在4代目で下呂温泉観光協会会長を務める瀧康洋さんにも受け継がれている。「近年は団体客が減り、個人の方や若い世代の旅行客が増えています。時代とともに変化する旅のニーズを確実にとらえ、観光に生かしていきたい」。そこで観光協会では、地元食材を使った「Gグルメ」や「素肌美人スイーツ」といったご当地グルメをはじめ、いくつもの企画を打ち出した。すると、まち歩きをする観光客の姿が格段に増え、スイーツショップなどの店も続々とオープン。下呂温泉には今、宿で過ごすだけではない、新しい楽しみ方が生まれている。
湯之島館の女将
この夏は、もてなしの心が息づく下呂温泉へ行こう。歴史ある名湯の今を訪ねれば、その新たな魅力に気付くことだろう。

基本情報

掲載した情報は2019年6月12日時点のものです。
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