田辺温熱保養所

たなべおんねつほようじょ
田辺温熱保養所の外観

日本古来の蒸気浴で心身を整えて
松尾芭蕉が「奥の細道」で結びの句を詠んだ、水都・大垣市。揖斐川から程近い静かな住宅街に佇む『田辺温熱保養所』は、訪れる客を今日も優しく迎える。客の目的は、古代から江戸時代まで日本人が親しんできた蒸し風呂だ。
田辺温熱保養所の樽風呂
戦後間もない昭和21年。現オーナー田辺恵さんの祖父が、大垣藩の蘭学医・江馬蘭斎が考案した皮膚病治療装置から着想を得て、温熱保養を目的とした“薬草樽蒸し”を考案。高さ4mを超える樽風呂は、耐水性と耐腐性を備えたコウヤマキを使い、高度な技術を有する職人がこしらえた代物だ。
田辺温熱保養所の樽風呂入口
1基に3、4人ほど入ることができる大きさで、立って入るのが特徴。扉を閉めると中は真っ暗で、薬草やハーブを煮出した蒸気が充満している。
田辺温熱保養所店主
開業から70余年が過ぎるまでは、知る人ぞ知る場所であったが、令和元年にオープンしたホテル「かるまる池袋」の“蒸しサウナ”を監修したことからサウナ愛好家にもその名が広がり、全国から客が訪れるように。「昼食を持ち込んで、ほぼ丸一日いらっしゃる方もみえます(笑)。わざわざ足を運んでくださるお客さんに気持ち良く過ごしてもらうためにも、毎日の準備と掃除が欠かせません」と話す田辺さん。細部にまで手入れが行き渡った店内にも、表裏のない店主の心が現れる。
田辺温熱保養所の休憩室
入浴効果を高めるルーティンは、まず、蒸気浴で体をじんわりと芯から温め、大量の汗とともに老廃物を排出。そして汗を拭き取って浴室内のベンチで“小休憩”をとる。それを3回繰り返した後、畳張りの休憩室で寝転がる“大休憩”によって、薬草を体に効かせる。火照った体と心がほぐされ、ぐっすり寝入る客も多いという。一連の流れについて「煮物を一度冷まして味を沁みこませる感覚に近いかもしれませんね」と田辺さんは笑う。
薬草樽蒸しに使う薬草
蒸気浴の要となるのが、伊吹山麗で採れたヨモギなど天然の薬草十数種類。秘伝の調合法を守りつつ、自家栽培したレモングラスやユーカリなどのハーブを取り入れることで、心地良い香りの蒸気を生み出す。また、薬草の香りや効能を最大化するため、完全に乾燥させ、手作業で細かく刻む手間も惜しまない。客の目の届かない場所での丁寧な仕事が、ここでの体験を特別なものにするのだ。
田辺温熱保養所 待合室の額
ゆるやかに時が流れる『田辺温熱保養所』では、誰もが静かに自分と向き合い、心を鎮める。外界と遮断された樽風呂の中での時間は、日常の喧噪や世間に溢れる情報から離れて、休息をとる大切さを教えてくれる。待合室の壁に掛けられた額には「健康にまさる幸福なし」の文字。ここを訪れる人々は、思わず知らずその理を解し、笑顔で家路につくのだろう。

基本情報

住所 大垣市波須1-515-1
TEL 0584-81-4528
営業時間 10:00~17:00
定休日 毎月5日・15日・25日・26日
駐車場 20台
URL http://tanabeonnetsu.com/
SNS
その他備考 要予約
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